あの日見た、緋い色は忘れられない。
もう二度と見たくは無いのに。
お前はこの手をすり抜けていくのだ、無情にも。

あの日見た、緋い色は忘れない。
もう二度と見たくは無いのだ。
だが、流れてしまう。
だからせめて止める為に・・・傍に。

02. Be by the side.




抜けるような青空の下、堺と世良はいつものように城下町はずれまで巡回に出てきていた。

「うーん、この辺も中々物騒になってきたって聞いたけど、やっぱ陽が高いうちならそうでもないスかねー?」
「・・だといいがな。だからって、気ィ抜いてんじゃねーぞ」

今日の巡回は至って平和で、人に害をなさない小さな魔物しか遭遇していない。
人に害をなす魔物など出ないに越した事はないが、いつ現れるか分からないからこその巡回だ。
のほほんと話している世良に向かって、釘を刺す。

「いや、気は抜いてませんって!この辺は人通りも少ないし、こんなと・・・!!」

弁解するように堺に向かって話しかけていた世良が、突然言葉を途切れさせたかと思うと
「まずい・・」と呟いた直後に前方へ走り出した。
「!世良!!待て!」
堺の呼び声にも止まらず、全速力で走っていく。こうなったら追いかけるしかない。
「ちっ・・!」
堺は一つ舌打ちをして世良の後を全力で追い掛けた。

世良の聴力は人一倍いい。きっと何か聞こえたのだろう。
すぐに世良には追いついた。
そこで堺が見たのは、危惧していた魔物が一般人を襲っており、世良がそこに割り込み魔物の爪を武器で受け止めてる所だった。

「おじさん、下がって!!!」

叫ぶと同時に世良は、一撃を魔物の顔面に当て、反動で飛び退って距離を置いた。
しかし、その男性は腰が抜けたのか、上手く動けないでいる。
「手荒ですみませんが、ここで隠れててください」
堺は隠れるような茂みへ男性を引っ張ると、そう告げて世良の下へ向かった。
相手は狼のような風貌をした大型の魔物だ。正直長引くと不利だろう。
一気にケリをつけようと堺が大剣を構えた時、世良が魔物の額を狙って一撃を放った。
「ギャアアアアァア!」
見事にヒットしたが、その際眼球をも直撃したのか、凄まじい悲鳴を上げて世良を振り払った。

「ぐあ・・っ!」
「世良っ!・・・・・・貴様ァ!!これでも喰らってあの世へいけ!!!!」

振り払われた世良の腕から血が流れていた。
その血の色を見た瞬間、堺は自分の中の血が沸騰し、剣に炎を纏わせ魔物に振り下ろした。
耳を劈くような断末魔と共に、燃え盛る炎の中で消滅していく魔物を冷ややかな目で見下ろす。

相手は魔物だ。完全に灰になるまで油断は出来ない。
灰になり消滅するのを確認すると、堺は世良に視線を向けた。

「ふぅ・・」
地面に叩きつけられていた世良は、何とか腕の怪我だけで済んだようで、立ち上がって先程助けた男性にお礼を言われているのが見えた。
その場に堺も近づいていく。

「助けて下さって本当にありがとうございます。なんとお礼を言ったらよいか・・」
「無事で良かった。ここいら最近物騒だし、あまり近づかない方がいいッスよ」
「もうすぐ日が暮れる。早く戻った方がいい」
「わ、わかりました・・!」

男性は何度も頭を下げた後、急ぎ足で城下町の方へ去っていった。



それを見送った後、おもむろに世良が口を開く。
「すんません、堺さん。助かったッス!それにしても・・魔法剣にするなんて珍しいですね」
世良は珍しそうに堺を見上げた。
堺は普段大剣を使っているが、そのまま物理攻撃を主にしていた。
魔法も使えるが、集中力が散るという理由で滅多に攻撃魔法など使わない。
実際には剣の技量と魔法を操る精神力を同時に行使しなければならない為、非常に難しく、また諸刃の剣でもあるので、
滅多な事では使えないというのが正しい。
そんな世良の視線に対して、堺は眉間にしわを寄せたかと思うと、無言で世良の腕を取る。
先程魔物から受けた傷は爪で抉られた痕が生々しく開き、血が流れ出していた。

「・・・・・・・」
「・・痛っ!さ、堺さん・・?」
「・・ったく。馬鹿が・・」

そう言いながら、堺は世良の傷口に手をかざして治癒魔法を発動した。
淡い光で包まれた後、世良の傷が塞がっていく。
堺は貴重な「癒し手」の持ち主だが、専らこの魔法は目の前の小さな同僚に使用されている。

「言ってる傍からお前は・・・突っ走りやがって・・・・」
「いや、つい、身体が勝手に・・・」
「・・・・あ?」
「・・・・・・・・・・・・面目次第もございません」

言い訳しようとする世良に、ギロリとひと睨みきかせてやると、世良は首をすくめて項垂れた。
堺とて、分かっているのだ。世良の性格も、その能力も。認めていないわけでもなければ、 責めたいワケでもない。
だが、しかしどうしても言わずにはおれない。
深いため息をひとつ吐く。

「・・・・他人を助けるのも大事だが、少しは自分の身を省みる冷静さも持て」
「・・・ッス・・・」
「お前は・・・もう一度、痛い目に合わんとわからんのか?」


・・・・過去に一度、戦いで世良は片腕を失っている。しかも、堺の目の前で。
優秀な「癒し手」のおかげでほぼ元通りに治っているが、今も着ている隊服は片袖がないまま。
小さな命を救った証だと世良は誇りに思っているようだが、堺にとっては思い出したくもないような出来事だ。
こうして話していても、二度と見たくない光景に自然と眉根が寄ってしまう。
そんな堺の気持ちには気がつかないのか、世良はぶんぶんと首を振ってあっさりと否定している。

「いやいやいや、それはないッス!本当ハンパなく痛かったし!!」
「だったら、少しは学習しろ!・・・・傍にいるこっちの身にもなれ」

その時点でようやく気がついたのか、世良はうーんと唸りながらぶつぶつと呟き始めた。

「あ・・っ、そっか・・堺さんにも迷惑かけちゃうんスよね・・・それはダメだ。でも俺結構考えるより先に身体が・・」
「そんなことは分かってる!誰かを助けようとするお前の行動を責めてるわけじゃない」
「え・・でも・・」
「何の為に共に行動してると思ってるんだ」

このとき「自分が傍にいることを忘れるな」と声に出して伝えたかったが、何故か言葉に出来なかった。
堺は自分の思っていることを上手く口に出して表現するのが苦手だった。
こんな時、自分の性質に舌打ちしたくなるのだが、治らないのだから仕方ない。
せめて少しでも伝われと世良の目に訴えかけてみる。

「・・・!堺さん・・・」
無言の訴えも、少しは伝わったのか、世良はゆるゆると瞠目すると堺の名を呼び、ゆっくりと口に笑みを浮かべた。
その笑みを認識した途端、堺は余計な事を言い過ぎたかと一瞬後悔に似た気持ちが過ぎり、視線を逸らしてしまった。

「堺さん。ありがとうございます・・・・でも俺、馬鹿だからやっぱりまた同じこと繰り返しちゃうかもしれない」
「!な・・・お前人の話・・!」
「うん、だから俺・・・・やっぱ堺さんが必要だ」
「何・・?」

伝わったかと一瞬安堵したのに、同じ事を繰り返すかもなどという世良に驚愕してると、 追い討ちをかけるかの如き台詞が聞こえた。
『この俺が・・必要?』
言われた事を無意識に反芻していると、世良は珍しく真面目な顔をして微笑んだ。



「堺さん、俺の傍に・・・居て下さいね」
「・・・っ!」



堺は心臓がドキリと跳ねるのを感じた。
『な・・なんだ、今のは・・・?』
堺の心配を理解してくれたようだし、傍にいて気にしてやってることも理解してくれたようだし、いいことじゃないか、
と心を落ち着かせる為に考えてみる。
だが、妙に気恥ずかしい。 一層眉間にしわを寄せ呟く。

「だから・・・・・居る、だろうが」
「へへっ、だーかーら!もっといつも傍に居て欲しいって事ッスよ!」

そう言うと、世良は堺に体当たりしてきた。
・・いや、これは抱きつかれた・・という方が正しい・・・。
こんな誰が通るかわからない公道で、抱きついてくるなど・・とんでもない男だ!
うっかり抱き締め返しそうになった自分を自覚し、慌てて否定すべく世良を振りほどいて叫ぶ。

「断る!!べたべたするな!離れろ!・・・・・斬られたいのか?」
「うわ・・っ!タンマタンマ、ちょ、堺さんその剣はヤバイって!!」
「ちっ、遊んでないで行くぞ!」

剣に手を掛けると、世良は慌てて飛び退り、重なっていた体温が離れた事にほっとする。
だが、抱きつかれた時の感覚が何故か残っていて、堺は居たたまれない気持ちになった。
そんな心の葛藤など全く知る由もない世良は何やら好き放題言っている。

「ふぃーっ危なかった・・堺さん、テレ屋だからなあ〜」
「・・・なんか言ったか?」
「何でもないッス!さー行きましょーー」
そう言って、のんきに先を進む世良に、後ろからため息を吐きながら堺は続いた。





『傍に・・居てください、か・・・』
真っ直ぐにこちらを見て告げられた言葉。これは嘘偽りない彼の本心からの言葉だと思う。
自分の存在が誰かに必要とされてるというのは嬉しいものだ。
それが彼なら尚更。
世良の背中を見詰めながら口角が微かに上がるのを感じた。
「馬鹿め・・・」
『頼まれなくても、傍にいるってことに早く気がつきやがれ』
そう心の中で罵りながらも暖かい気持ちで満たされながら、帰途についた。



王国FTネタ第一弾はセラサクセラです。
い、如何でしたでしょうか・・?先に会話だけが浮かんだので、SSの形にすべく言葉を付け足すのが難しいですね・・。
今度から会話形式でそのまま載せちゃおうかな・・・?
この二人は意外と動かしやすい気がしましたが、きっといつもウチの堺さんは怒ってますww
実は堺さんの方が好き度が高いです。でも自覚してません。世良は、純粋に「好き。いつも一緒がいい」と思ってるだけだったり・・。