治癒師に体力を回復して貰った後藤は、次の準決勝を難なく勝ち抜け決勝に残った。
控室に居ると、ノックが聞こえ男が一人入ってきた。
「邪魔するよ」
「!あ、貴方は・・・」
何故ここに?という疑問を乗せて見やると、まずは名乗ってくれた。
「俺は騎士団団長の笠野だ」
「存じております。どうしてこちらに・・・?」
「ま、平たく言うと『スカウト』だ」
「え?・・でも、まだ決勝終わってませんよ?」
「一位だけじゃなく、上位三人には皆来て欲しいんでね」
「成程・・・あ、ありがとうございます」
騎士を希望してたので、団長から声が掛るのは名誉なことだ。
密かに喜んでいると、笠野の口から達海の名が出て意識を戻す。
「ま、達海には断られたけどな」
「そうでしたか・・・」
断っている様が目に浮かぶ。
確かに彼なら能力的に十分だろうが、いかんせん、性格的に騎士になろうと思わなそうだ。
「ああ、しかもそのまま帰ったよ」
「へぇーそのまま帰っ・・?!え??」
うっかり聞き流すところだった。
「帰った・・・って、達海が?じゃ、試合は・・?」
「放棄したよ。今は意味がないと言ってね」
「ほ、放棄したーー?」
きっと前代未聞だろう。だが、『今は意味がない』ということは、彼も後藤と同じことを考えたということだ。
得心がいって苦笑せざるを得ない。
「お前さんとの決着は来年だそうだ」
「・・・わかりました」
後藤がすんなり受け入れると、笠野は意味ありげに目を眇めて笑った。
「・・・何か?」
「お前さん・・結構向いてるかもしれんな・・・」
「向いてる?」
意図がよくわからず鸚鵡返すと、笠野は頭を振った。
「ああ、いや・・・厄介な人間に好かれたものだと思ってね」
(厄介な人間?・・・て)
「ひょっとして・・・達海のことですか?」
そう尋ねると答えはなく、ただ笑っていたので否定する。
「おそらく好かれてはいないですよ、残念ながら」
「・・・残念ながら、か。まぁいい。試合前に悪かった」
「いえ・・・」
「改めて招集をかけよう。その時にな」
そう言って、笠村はあっさりと控室を出ていった。
その後、決勝には出たものの、達海がいないということで緊張が切れたのか、
笠村の言葉が引っかかっていたのか。
おそらく両方の理由で集中力を欠き、一瞬の隙を突かれ敗北を喫してしまった。
笠村の言う『厄介な人間』はもちろん達海が含まれているが、笠村自身も含まれていることを、
この時の後藤は知る由もなかった。
そしてこの厄介という本当の意味も・・・・・。
こうして11989年の武闘大会は幕を閉じた。
後藤は準優勝となり、その功績から騎士団へ推薦された。
翌年早春。
騎士見習いを経て、後藤恒生は念願の騎士となり、栄えある王国騎士団員としての第一歩を踏み出したのであった。