運命の邂逅2

 三回戦に勝った後、控室を出ると廊下に笠野が立っていた。

「あれ、おっさん・・・」
「奴に勝つとは・・やるねぇ」

 そういって、まるで勝つのは分っていたかのような笑みを浮かべてこちらへ歩いてくる。
「結構素早くて驚いたろ?」
「まーね。何てゆーか・・・意外だった」
「だろう?世の中見た目で判断出来ねぇ奴がいっぱいだ」
 そう言って、こちらにひた、と視線を合わせてくる。
「ま、俺に言わせりゃ、お前さんも同じだがね」
「オレ?・・・なんで?」
 自分でいうのも何だが、特に変わった外見はしていないと思う。
 疑問を顔に乗せて見返したが、笠野は答える気はないらしく、さらりと話題を変えた。

「そういや、お前の次の相手は『後藤恒生』という奴だ。あー・・お前より4つ程上か?」
「ゴトウ、コウセイ・・・」
 特に聞き覚えのない名だ。4つ上となると21歳ということか。
「そうだな・・奴は、ある意味見た目通りか。あまり『裏切られた感』はないと思うぞ」
 そう言って笠野はクククと喉で笑うが、ふと視線をこちらへ向けると意味ありげに眇めた。
「このカードはお前さんにとっていい経験になるかもなぁ」

 正直言うと、対人で実践経験を積めるのだからどれもいい経験だ。
 だが、この意味深な笑みが気になる。

「その後藤って奴、何か特殊能力持ちなわけ?」
「ん?まぁ、そうだな。『特殊な魔法能力持ち』だな」
「ふぅーん・・・」

 笠野は自分の光魔法も特殊だと言っていた。
(ひょっとして相手も光の魔法持ち・・・?)
 そこまで考えると、笠野が軽く肩を叩いて手を振る。
「ま、力試しなんだし、気楽に頑張れや」
「おう・・・」
 言いたいことだけ言って、あっさり踵を返すとそのまま行ってしまった。
 相変わらず掴みどころのない男だと思う。
 どこまでが本心なのかも見えにくい。
(ぐだぐだ考えても仕方ねーし。さくっと行ってくるか)
 そうして、試合の扉が開かれるのを待った。


 しばらくして、試合の鐘が鳴り、自分の名を呼ばれた。
 先程と同じように扉を開くと、眩い光が自分を包む。一瞬そこは白の世界だ。
 瞬きをして目を開くと戦闘エリアの光景が目に入る。
 場内は歓声に包まれていた。ものすごく声が響いて全ての音を遮るかのようだ。
 出場者は相手の声やアナウンスがきちんと聞こえるように、イヤーフォンをつけている。
 反対側を見やると、まだ相手は出てきていない。

対戦者の名前が載る掲示板を見上げると、KOUSEI GOTOとある。
(後藤・・・・恒生、か・・)

 歓声が大きくなった気がしてふと扉を見ると、丁度相手が入ってくるところだった。
 姿を現した対戦者を見た途端、達海の心臓は大きく震えた。


(アイツーーーー!!今朝の・・・・・!!!)


 向こうからゆっくりと歩いてくるその青年は、間違いなく今朝自分を守った人だった。
 確かに急いで向かった先は闘技場だったし、大会に出るんじゃないかと分ってたのに、
まさか自分の前に現れるとは。

(となると、おっさんが言ってた特殊能力って『防御魔法』か!)

 驚愕と脳内の情報整理で一言も発せずに立っていたら、すぐ近くまで相手が来ていた。
 緊張はしているようだが、今朝と変わらない柔らかい苦笑で話しかけられた。

「まさか、君がここに居るとはな。驚いたよ」
「オレも・・・・・驚いた」

 というより、現在進行形で驚いている。改めて目の前の青年を眺めると艶のある黒髪に
黒曜に近い群青色の瞳。
 派手な美形とは言えないが、よく見るとそれなりに整った顔立ちをしているように思う。
 今は、少し困ったような笑みを見せているが、達海にはその表情がすごく好ましく映った。
(・・・なんでコイツ此処に居るんだろ?)
 自ら進んで力自慢とかするようには見えないし、そもそも戦いの場は似合わないような雰囲気を感じる。
(まぁ、オレだって戦場が似合うとか言われたら複雑だけどさ)
 そんなことを思っていたら、目の前の男は表情をゆっくりと変えて口を開いた。

「とりあえず、此処に居るのだから戦わせてもらう。君は若いけど・・・特殊魔法の使い手のようだし、
全力であたらせてもらおう」

 引き締めた表情の中、瞳に力が宿るのが見えた。
 高揚と決意の色だ。
(オレに・・・勝つ気でいるのか・・・面白い!)
 その瞳を見た途端、達海の中にも今までにない高揚感が生まれ、後藤を見返した。

「望むところだぜ・・!アンタは防御魔法を使える。
 こっちも手加減なんて出来ねーし、覚悟しろよ・・っ!」

 そう言い放つと同時に、達海はバックステップで後藤から距離を取った。
 すると後藤は頭の上に乗せていたバイザーを降ろし装着した。
 薄暗色のサングラスのようなもので、目を保護するものだ。
 達海は視界が変わるのを好まないので、装着していない。

 相手が防御に優れていることは分ってるが、攻撃については情報がない。
 もしかして同じ光魔法の使い手である可能性もある。
 相手の攻撃を待ってもいいが、彼は防御魔法を発動した時、詠唱時間がほぼなかった。 詠唱なしで発動出来るなら、距離を取ろうが取るまいがいつでも攻撃される。
(オレは防御魔法使えねーし・・・こっちからいくか)
 素早く頭の中で計算して・・・・正面から切り込むことに決めた。


「んじゃ・・・・いくぜ!!」