運命の邂逅2(2)

 自分が目の前に立った時、達海はものすごく驚いた顔をしてこちらを凝視していた。
 しばらく呆然と見つめられ、それほど驚愕することだろうかと苦笑してしまった。
 
だが、後藤は達海と当たると分った時、驚愕よりも「きたか!」という高揚が先だった。
 先程見てしまった光魔法はそれなりの威力だったが、彼にとっての隠し玉は
こんなものではないだろうという妙な確信があった。
 自分がそれを引き出して見てみたい・・という感情が胸に湧き、扉の前に立った。

(おかしなもんだな・・戦いはあまり好きじゃないと思ってたのに、今それを楽しみにしてる・・・)

 自分でもよく分らない感情を少し持て余した状態で達海に戦いを挑むと、彼も最初の驚きから
好戦的な表情へ変化した。

 後藤から距離を取ると、攻撃を仕掛けるか否か少し計算してるようだ。
 バイザーを掛けたのは、彼の光魔法が一瞬視神経を奪うのを防ぐ為と、
こちらの視線の動きを悟らせにくくする為だ。
(まぁ、大した効果はないかもしれないが、念のため・・・)
 きっと彼から攻撃してくるだろうと読み、武器を構えた。
 読みは当たり、真正面から切り込んできた。
 魔法は使わず、武器で受ける。
 ガキィ!!と高い音が鳴り、手ごたえを感じる。


(!!思ったより一撃が重い・・・っ!)


 どう考えても後藤より軽量な身体なのに、放たれた一撃は鋭く重かった。
 受け止めた直後、達海はニイッと笑い連続で攻撃を仕掛けてきた。
 弾かれた反動を利用して身体を沈めると、そのまま薙ぎ払い、飛んで避けるとくるりと回り、
踏み出し切り上げてくる。
 ものすごいスピードだ。
 切り上げ攻撃をギリギリで避けるが、体制が崩れた。
(!!!しまった・・っ!!)
 反射的に上を見上げると、切り上げた際に空中に飛んでいた達海が一回転し、
両腕を振り上げたまま目をギラリと光らせ叫ぶ。


「!!!・・・・もらったーーーァッ!!!」


「チィ・・・ッ!!顕現せよ!紺碧の壁・・っ!!!」
「何・・・っ!!!!」

 渾身の力で空中から振り下ろされた剣は、後藤に届く直前、音もなく弾かれた。
 後藤の防御魔法が発動した為だ。
「うわ・・っ!・・・痛ってぇ!!」
 ドスンという音と共に達海が床に投げ出されていた。

 【紺碧の壁】は水の防御壁だ。
 攻撃は吸収され、相手はゴムかゼリーを切ったような切り応えのない感覚を味わったはず。
(ふぅー・・・危なかった。しかし、魔法なしでコレとは・・紺碧だと受けきれないかもな・・)
 もっと強力な防護壁はあるが、後藤は達海を極力傷つけないようにと
無意識に水の力を発動していた。

(これできっと魔法も使ってくるだろう・・・さて、どうくる・・?)
 この時、後藤は完全に達海との戦いを純粋に楽しんでいた。



                    ◇◇◇◇◇◇◇


 後藤の武器は棒だった。
 棒術の使い手とはやったことがない。槍の使い手と同じだと思うことにした。
 背も相手の方が高いのに、更に長い獲物持ちとは・・やりにくい。

(超近距離戦に持ち込むしかねーな・・・)

 そう考えて、詠唱を唱える間もないほど連続で攻撃を仕掛けてみたら、
流石にそう簡単に斬られてはくれなかった。
 だが、避ける際に一瞬足元が崩れたのを見たとき「勝てる!」と思い、渾身の一撃を放ったのに・・・。
 たった二言の詠唱で、それはあっけなく防がれてしまった。

 刃が沈む感覚があったかと思った瞬間、『ぼよん』としか言いようのない感覚で弾き飛ばされた。
 全く痛くなかったのに驚いたが、むしろ地面に落ちた衝撃の方が痛かった。
「うわ・・っ!・・・痛ってぇ!!」
 身を起して相手を見やると、立てた棒につかまり呼吸を整えながらこちらを窺っている。
 その瞳には『大丈夫か?』という心配の色が見て取れた。
(おいおい・・・・こっち心配する余裕あんのかよ・・・)
 そう言えば、さっきの防護壁は朝見たのと違っていた。
 弾かれた時も全く痛くなかったことを思い出す。衝撃吸収能力型だったのだろう。
 今朝のは容赦なく色々弾き飛ばしていた事を考えると、自分用にとっさに選んだとしか思えない。
 達海の心にむくむくと何かが湧き出てきた。

(へー・・ほー・・そーかいそーかい・・・)

 ザクリと剣を地面に突き刺し、立ち上がる。
 口内で詠唱を始め、両手を強く握る。

「天も地もなく悠久の理をその根に抱く無限の輝きよ・・・・」

 さあぁっと自分を中心に風が舞う。
 唱える傍から光の魔法陣が地に姿を現す。
 この魔法は今まで達海が使った中で一番大きい威力のものだ。
 一度しか、しかも魔物にしか使ったことがない危険な技だが、どうしてもこれが使いたい。

(アンタのその余裕・・・・今ここで)

 こちらが詠唱しているのを悟った彼が武器を構えなおし、警戒してるのが判る。
 向こうも魔法を発動するだろうが構わず唱え続けた。
「汝の力、疾く(とく)来たりて示せ!」
 左手で右手を支え、前方へ突き出し呪の完了を高らかに告げる。

(このオレが・・ッ、無くしてやんよ・・・!!)


「Glanzen Bestrafung!!」


 手のひらから大きく熱い光が放たれる、と同時に達海は駆け出していた。
 地面から引き抜いた剣を持ち、刃に対して更に光の呪文を唱える。

「・・追憶の扉を開きて天上より追撃せよ・・!」